サマーエンド・ラプソディ
         〜789女子高生シリーズ

 




    おまけというか、余談というか



 「あの女、時々妙な仕草をしていた。」
 「あの女? ……ああ。」

 そんな言い方なんてして もうと、
 それで通じたくせに、どこか呆れたように言い返したその人が。
 だが、一体どんな?と目顔で先を促せば、

 「片手を時々、自分の肩へ挙げかけて。」
 「ああ。それはアタシも気がつきました。」

 殿方に長く抱えられたのは初めてだったか、
 それで落ち着かないのかなとも思ったのですがと、
 可愛いかったなぁという気色で微笑ってから、

 「あれって、フランベルジュを引き抜く構えに似てましたよね。」

 フランベルジュ?
 ええ。洋剣の、大層大きい太刀のことですよ。

 「腰に提げるのがショートソード。
  それより大きいので背中へ背負う剣のことで、両手で持って振るうんです。」
 「あ…。」

肘ごと挙げようという動かしようでいらしたので、尚のこと、
一体どんな、バレエの役柄を思い出されたんだろかと、
勇ましいお嬢様だなぁって思いました、と。
まったり微笑むお兄様へ、

 「……ん。////」

こちらの“きゅうぞう”さんが仄かに含羞んで見せて。

 「さて。本物の大使の御令嬢は、無事に保護出来たんでしょうか。」
 「………。(頷、頷)」

お父様の外交大使が、
赴任先の国家の何かしら秘密を知ったかどで国外へ出ることを阻止されて。
その足止めの爆弾が、一人娘の身の安否。
まだ手出しはされちゃあいないが、
既に監視下にあるも同然、どこからでもどうとでも出来るのだぞと脅された。
そこで、父上の脱出大作戦と同時進行、
この日本でも、彼女が招待されたバレエの鑑賞中に
こそりと身柄を保護しようという大作戦を発動した、
とある組織の人達だったのだが。

 「まさか あちらさんが、お嬢さんとハーミア様を取り違えようとはねぇ。」
 「〜〜〜。」

国家の命運を握っている人物をつなぎ止めておくための人質。
そんな大事な存在として目をつけたにしちゃあ、
本国を離れた地の特派員では、今ひとつ危機感が薄かったか、
それとも単に情報伝達に問題があったのか。

 「確かにバレエを熱心に習得なさってはいたけれど。」

金色の綿毛も軽やかな、ビスクドールを思わせる白皙の美少女。
深みのある白い肌に、すんなりした手足も可憐な、
そちら様は生粋の西欧人だが、
こちらさんはそんな少女と間違えられた風貌なのに、
生粋の日本人だと来たもんで。

  しかもしかも

日本でも屈指との格を誇るコンツェルンの、
恐らくは唯一の後継者でもあるという、
政財界では結構 著名な少女だっていうのに、

 「どうして誰も間違いに気がつかなかったものでしょか。」

警戒していた護衛対象の少女ではなく、
そんな彼女が練習を見学しに来た先、
このホールにて、リハーサルの舞台へ上がっていたヒロイン役の少女へと、
あっと言う間に相手陣営のマークが移った呆気なさは、
一体どんな魔が差しての不具合か。

  ―― まさかもしかして、
     何のかかわりもない無辜の少女を
     影武者に仕立てよう大作戦なんてもの、
     誰ぞが勝手に構えた訳じゃあなかろうなと

よその伝達系統の不備を笑ってられない、
由々しき事態じゃなかろうなと危ぶんだ、
お父様の護衛を担っておいでの誰か様だと漏れ聞いた、
こっち陣営の誰か様。
意識しての策ではないらしかったが、
それで敵の眸を欺けているのならばと、
やや不埒なことを思う司令がいたようで。

 『結構な家柄の令嬢だそうだから、
  独自の護衛が付いているんじゃないのか?』

 『さよう。
  それに、我らが接触することで、
  ますますとそちらが本物だとの誤解を深めかねぬしな。』

こういう時ほど舌がよく回る古狸さんたちの非情な言い分を、
そういう処断を嫌う宗主だと 重々知っている身近な人たちが、
歯痒く感じて相談した先が、

  御主の心根、誰よりも深く御存知のこちら様。

人違いされた側の子への守りは特に構えられてはないと聞き、
関わりのない少女が危険にさらされるのは、
やっぱり良いことじゃあないはずだと。
正式な一族の構成員じゃあないけれど、
だからこその侭も利く身なのを良いことに。
話を仄めかした西方の主幹の方々によるお膳立てに乗っかって、
うっかりと間違えられてたお嬢さんの方をがっちり護衛し。
千秋楽の晩という、最も危険な宵の対峙も、
事実上“部外者”の活躍で、ものの見事に収めてしまったというワケで。

 『お叱り? せやな、
  今回の日本サイドの執行責任者は、
  どんな節穴やっちゅうて、ご老公連中からお叱り受けてまうのやろうな。』

 『せやから言いましたやんかて、せいぜい囃し立てたりますよって。
  ただ通りすがっただけのお二人には、何の障りも及びまへんて。』

 『それに……。』

  わざわざ進言せんでも、〜〜様 帰って来てはりましたしと。
  思わぬ爆弾発言に遭ってのこと。
  そこまでは余裕でいた誰か様、
  一気にえええっと驚いてしまわれたそうですが、
  そちらの方々の、内部での悶着、これ以上は門外秘ですゆえに。
  どちら様も、のぞき見はここまでということで………。





    〜Fine〜   12.08.23.〜08.26.


  *本当は1シーンだけにして拍手お礼とか、
   ドリー夢とか考えていたのですが。
   気がついたら、こちらのお嬢様たちのお話に合体しておりました。
   だって、護衛とか依頼されそうとか、
   案外接点できたりしてという階層の人たちなんだもの。

  *…で、
   結局は説明まるけな次第となっちゃいましたね。
   いや本当に、もっと簡潔に、
   通り魔みたいな一件だったという程度の
   短いお話にしたかったんですが。
   切り込む角度を微妙に読み間違えたか、
   結果、話の核まであっさりと四散しちゃったみたいです。(ダメじゃん)
   後日談という格好で補填出来れば良いんですが…。

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